コラム(R4.3)

体内微生物の生態系との切っても切れない関係

 今、地球環境の問題などが原因で、生物の多様性が失われつつあることや、絶滅危惧種が増えていることが大きな問題となっていますが、そうした危機的な状況は遠い世界の話ではなく、実は私たちのもっとも身近なところで起こっています。

 土の中だけでなく、空気や水中、植物や動物のカラダなど、地球上のあらゆるところには、微生物が存在します。

 私たちのカラダにも、多くの微生物が生存しています。外部に接する皮膚はもちろん、から肛門に至るまでの消化管に生息して、共存共栄しながら私たちのカラダを維持してくれているのです。人体を構成する細胞の数は37兆個ほどですから、それよりはるかに多くの微生物と共生していることになります。

 口に入れた食べ物はかみ砕かれ、消化酵素と混ざり合いながら分解され、胃で消化されてかゆ状になり、小腸に送り込まれます。小腸でさらに分解された栄養素は、腸管の上皮細胞からリンパ管や毛細血管を通って体内へ吸収され、血管を通って全身へと運ばれていきます。

 小腸で消化されなかった食べ物(食物繊維など)は大腸へと送られていきます。大腸には一〇〇兆個にも及ぶ微生物(細菌)たちが群れをなして待ち構えていて、その姿が花園のようなので腸内フローラとも呼ばれています。その重さは1.5〜2㌕にもなり、肝臓の重さに匹敵します。

 しかも、これら腸内微生物によって分解される過程で作り出される代謝物質が、私たちの心身の働きと密接に関わっているのです。

 この腸内微生物は土壌微生物叢と同じく、何か特別な微生物だけが増えるのも良くなく、多様性が大事だということが強調されています。人間社会と同じく、何かアクシデントが起きた場合に対応できるよう、多種多様な微生物たちがバランスよく生息していることで、腸内の生態系は維持されているのです。

 それでは、この体内微生物(常在菌)たちは、いつどこから人体に宿ってくるのでしょうか。それは母親の産道を通るときから始まり、その後の空気(環境)や母乳・食べ物、周囲の人や物との接触などを通して微生物一式を受け取り、幼少期までに安定され、その微生物たちと共に成長していくことになります。

 ところが最近では、赤ん坊が母親から微生物一式を受け取れなかったり、過度の抗生物質の投与や不健康な食べ物などの摂取によって、この微生物たちの多くを消滅させてしまったり、バランスを崩してしまったりすることが増えてきているようです。

 20世紀の後半から先進国で急増している肥満や過敏性腸症候群、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症などの病気は、この腸内微生物叢の様相が従来と変わってしまったことで生じているといわれています。

 私たちの心身を形成しているものは、やはり食べ物です。その多くを土で育った作物に依存していますが、私たち生き物の〝命の源〟である土もまた、環境汚染などにより微生物が減少し、バランスを崩しています。

 今日の環境問題は対岸の火事ではなく、私たちの心身とも密接に関係があるということが理解できれば、〝食・農・環境〟に対する意識も、もっと身近なものとして、真剣に考えられるようになるのではないでしょうか。

(人類愛善会「食・農」部会)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA