コラム(R4.2)

“食”や”農”に対する関心を

日本では1960年に、1,454万人いた農業従事者の人口が、この60年間で152万人(2021年現在)に減少しています。さらに65歳以上が約7割を占めているという現状です。

 日本の食糧自給率(カロリーベース)は一昨年、37%に落ち込んでしまいました。

 また志や希望をもって新規就農しても、約7割の人が生計を立てられていないということです。

 高齢化による担い手不足、耕作放棄地の増加、新規就農の難しさ、集落消滅の危機など、日本の農業事情は深刻度を増すばかりです。

日本はいつからこのような国になってしまったのでしょうか。”食”は私たち国民の命の源です。その生産を担う農業を、あまりにも軽視してきたからではないでしょうか。

 東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘氏は著書『農業消滅』(平凡社新書)の中などで、次のように警鐘を鳴らしておられます。断片的ではありますが、その一部を紹介します。 

 現在、世界的に農薬や添加物の使用・残留規制が強化されている中で、日本だけが緩められ、危険な輸入食品の標的にされています。

 2017年に農水省が輸入小麦の残留調査をしたところ、米国産の97%、カナダ産の100%から、発がん性が指摘されるグリホサートが検出されたということです。農民連分析センターの2019年の検査によれば、日本で売られているほとんどの食パンや多くの小麦粉製品から、グリホサートが検出されたそうです。

 世界的には、このグリホサートへの消費者の懸念が高まり、欧州をはじめ世界各国で規制が強化されている中、日本では逆に規制が緩和されているのです。

 日本は2017年、米国からの要請に応じて、小麦から摂取されるグリホサートの限界値を6倍に緩めました。

 ジャガイモについても、2020年に生食用のジャガイモの全面輸入解禁に向けた協議に合わせて、殺菌剤のジフェノコナゾールを生鮮ジャガイモの防カビ剤として食品添加物に分類変更すると同時に、その残留基準値を20倍に緩和しました。

 世界的には有機農業は一つの潮流になりつつあります。EUでは欧州委員会が、2030年までに「農薬の50 %削減」「化学肥料の20%削減」「有機栽培面積の25%への拡大」などを「ファームtoフォーク」戦略に明記しました。これに呼応して日本は、目標年次を2050年と遅らせましたが、ほぼ同じ目標数値を打ち出しました。

 しかし、有機農業の中身が違うものになってしまわないかという懸念があります。代替農薬の主役は、遺伝子の働きを止めてしまうRNA農薬というもので、化学農薬に代わる次世代農薬として、すでにバイオ企業で開発が進んでいます。化学農薬ではないとしてRNA農薬が有機栽培に認められたら、自然の摂理に従う有機栽培の本質が損なわれてしまいます。

 さらに、日本では有機栽培面積を100万ヘクタールに拡大すると目標を掲げていますが、ゲノム編集について無批判的に推進している点は大きく矛盾します。

 すでにゲノム編集のトマト苗を小学校や障害児童福祉施設に無償で配布し、栽培させて食べさせようとする普及活動を進めています。そのうち、ゲノム編集も有機栽培に認めさせようとするつもりなのか疑われます。

 このような事態にならないように、私たち多くの消費者が「食」や「農業」に対して無関心であってはならないと思います。

(人類愛善会 食・農部会)